◆編集後記◇ 『とい』2003年号は予定より発行が大幅に遅れ、2004年4月1日となった。同人がそれぞれに多忙な毎日を送っているためである。期せずして、国立大学独立法人化の日と重なった。いわゆる「教養解体」以来、顕著にトップダウン式の大学改革が続いているが、真に望まれるのは大学内部における議論の積み重ねからボトムアップ式に生まれる大学像であろう。『とい』はささやかな営みではあるが、わたしたちにとって時代は変わっても大切な場であることに変わりない◇ 和田の書評は、自らの体験に照らし合わせて本を読むという意味で、通常の書評とは異なる。本を読みながら、自らの体験を考察することにもなっている。ともあれ、題材の捌きも表現方法もますます巧みである。『カミの現象学』の著者梅原賢一郎は一見民俗学者であるが、関心の中心は身体性にあると思われる。『カミの現象学』を読みながら、彼が『とい』創刊号から5回にわたって連載した『ソとレからなるラプソディ』という小説をすぐに思い出したのはわたしだけではないでしょう。同時にその源流にあるのはメルロー=ポンティ『知覚の現象学』ではないでしょうか◇ 松崎の小説は前回再録したものの続編である。今回は大部分ミルトンの『失楽園』、特にサタンの演説をめぐる解釈が中心になっているが、精緻な読みは見事にサタンの言葉を解きほぐしてくれている。ここでわたしたちは、じっくりと読み、理解、推論、熟考することを学ぶことになる。明確で論理的な思考に接することができる◇ 楠瀬の詩は「一九九七・夏」「夏の午後」「せんだんにあおばずく」に続く夏シリーズの一つである。故郷を離れて三十年以上が経つが、思い出は休暇がとれる夏休みに限られる。もっと色々と書けそうなものだが、今回は二年ぶりに参加したことに意義があるということにしたい◇ 今回は論文が一編もなかった。次回は千葉およびその他の同人にも期待したい◆ 最後に同人関係で梅原賢一郎の著書はすでに和田による紹介があったが、小畑精和(明治大学教授/現代文学・カナダ文化研究)による『ケベック文学研究−フランス系カナダ文学の変容』(お茶の水書房・2003)が出版されたことも報告する。2002/03年カナダ首相出版賞審査員特別賞を受賞された。<く>