編集後記 

 

『とい2004』も2003年号に引き続き、年を明けての発行となったが、幾分か早い時期に発表できたのが救いである。ツナミの脅威を世界に知らしめたスマトラ沖の大地震で、いまだに地球の軸は揺れているらしい。かつてほど核戦争の脅威は大きくはないが、原子力発電所、戦争、環境破壊など人間が地球にもたらす脅威には深刻なものがある。地球温暖化による気候の変動についても、人間の関与が否定できない。今一度、映画「独裁者」の演説の中の「この世界には、どんな人にも居場所があり、この良き大地は豊かで全人類を養うことだってできる」という言葉を思い起こし、謙虚に生きることを忘れてはなるまい◇「科学と詩」は楠瀬が最近研究の中心に置いているホプキンズの習作を解説している。どんな小さな作品であっても、この詩人の宇宙は魅力的に聞こえる。古来、人間が抱いてきた「驚異の感覚」といったようなものを持って、科学的な目で自然現象を詠っているからであろう◇なお、「虹の詩」について、松崎氏より貴重な感想を頂いたので、読者のさらなる理解のために、ここに掲載する。「落水の飛沫(縦糸)と陽光(横糸)の織物(text)である虹は、さらに見る者の目や思考の中に織物として存在する。その織物は多様で、一つ一つは強固(個性・個々人の思想)だ。縦糸と横糸の交差部分をknotと呼びうるならば、knottextと同義的かもしれない。卓越した美を眺める人たちはそれぞれその美のある部分を見ている。それぞれの美はそれぞれの人のこころをうつ(text/knot)のだ。人はそれぞれのうちなる美(text/knot)に固執し、それを大切にする。同一の美をめぐる体験は、必ずしも、同一の体験を結果しない。個的体験は共有されがたいのだ(しかし、同一の美をめぐる体験だったことは重要な意味をもつ)。これは、人間のある真実だろう」◇「ミラノのある部屋」は、松崎が研究課題としているアウグスティヌスの『告白』論のひとつである。いつもの丁寧な語りに耳を傾けているうちに、文中で繰り返される「人の内面は、人の住まいや生活あるいは行いに反映するものだ」のためか、何か説教(信仰・教義について説き聞かせること)を聴いている感覚になる。わたしたちも「読むことに専念する部屋」を用意し、「信頼するに足る友」と語ることができるだろうか。OUI!「とい」はそういう場でありたい◇楠瀬は詩を読むだけでは、詩は読めないと思い、詩を書き始めた。当面は英語と日本語との違いはあるが、ホプキンズの文体を意識しながら、書くことになろう。2004年の秋に感じた喪失感に触発されて、光を求めて、心のうちへと、過去へと、入り込むことになってしまった。2005年は「文学」を前期の半分だけ講じることになった。学生諸君とともに詩を読むだけでなく、詩を書く機会も持ちたいと思う◆次回は、和田の「教育論」に乞うご期待。それに、他の同人、読者の皆様、ご投稿をお待ちしております。<く>