連詩

光を求めて(春夏秋冬)

                                               

楠瀬 健昭

 

桃の花の下

集える顔、顔、顔も

また桃の花

レンズのこちらも桃の花

 

お昼持て

遊山に行けば

棚田にレンゲ絨毯

 

ゲンゲを褥に

昼寝の帰り道

はるかに見える海原

 

光のさざなみ

ぼくらを祝福す

1968年・春)

 

 

私は山道に身をかがめ、息を止め

視線の先にはやっぱり身をかがめ、息を止め

小川に入ったバアが額に玉の汗

手に持つ竹ヒゴだけがかすかに動く

 

谷間にさっと風が舞い降りる

バアの手がさっと宙に舞う

バア振り返り、喜色満面

両の手でまるく握った前掛けに、黒い何かがうごめいていた

 

バアは夏の光

私の心も華やいだ

もう言葉をかけていいのに

やっぱり音のない世界が続く

バアは身をかがめ

清水でのどを潤す

1958年・夏)

 

 

肌刺す光に

終わりのない灼熱

天上から滝水どどどどー

 

チャバが列島を駆け抜ける

浅間が火を噴く

煙を上げる

 

地は揺れを繰り返す

またひとつ

列島を駆け抜けるソングダー

 

テーブルの上の甲斐路は秋を告げるが

私は川面を駆け抜ける風を知らない

川面にきらめく光を忘れ

はるかな高みに群舞するウスバキトンボも見ない

2004年・秋)

 

 

竹の樋に氷柱ぶら下がるとき

ぼくら先祖に手を合わせ

小さな集落下に見る

 

一軒、二軒、また一軒

それに山の分校

抱く谷川

蛇行繰り返し

 

あるときは神の杜を守り

あるときは田んぼの縁を舐め

瀬となり淵となり

谷間に消えゆく

 

ぼくらは石段を降り

せせらぎ渡り

石段登る

祈る姿にあらたまの光

1976年・冬)